オフィス、ショールーム、品質検査、流通加工部門を、
より機能的で一体感のある社屋に
今回の案件はどのようなプロジェクトでしたか?
浅井 正憲様:本プロジェクトには、丸井スズキ様の足立区旧社屋のメンテナンス等に携わっていた三浦工務店様からのご紹介で携わることになりました。以前、私どもが三浦工務店様のオフィスを設計したことがご縁となり、声をかけていただいたのがきっかけです。丸井スズキ様の旧社屋は事務棟と汎用型物流センターが分かれて建っていたのですが、近年はDX化と共に外部への業務委託が進み、これまで分散していたメーカーとしての機能を集約できるのでは?という課題を解決するために計画がスタートしました。そこで、事務棟・物流センターを1棟に集約したプランを提案し、トラックの出入りなども踏まえた上で敷地内の有効活用について一から検討し設計を進めていきました。
建築設計のコンセプトについてお聞かせください。
浅井 百合様:1階がプロセスセンター(流通加工部門)、2階がメインオフィス、3階にはショールーム、シミュレーションコーナーとコミュニケーションスペース、キッチンスタジオや品質検査室などの構成です。業務の流れをひとつの建物内に集めることで、他部門やお互いの仕事が見えるようになり社員一人ひとりがテーマとする『 協働 』を意識することができ、より効率よく働ける職場環境を目指しました。加えて、さまざまな部署の社員が自然に集まり会話が生まれるなど、一体感を持って働けるようコミュニケ―ションスペースや飲食スペースを設けています。公園側は緑を眺められるよう開口部を多くとるなど、周辺環境を活かして居心地の良さを感じられる工夫も随所に取り入れています。
浅井 正憲様:将来的な会社の体制や世の中の動きなどの変化にも柔軟に対応できるように、インテリアや間仕切りは今後の可変性を意識して植栽を多く活用していることもポイントです。また、フロア全体が見渡せる位置に社長室を配置するなどして様々な部署の社員といつでもコミュニケーションが取れるような、風通しのいいレイアウトを実現しています。
堅牢性、意匠性、使い勝手の良さから採用を決めた「門扉」
今回、ヒガノの「門扉」を採用した決め手は?
浅井 百合様:正面玄関と駐車場側にはノンレールゲート、倉庫側にはレールゲートの「門扉」を採用しました。旧社屋も「門扉」は設置されていましたが、大型トラックが出入りする空間なのでかなり幅が広く、台風で倒れてしまったり、何かの拍子にねじれて壊れてしまったりすることが度々あり、メンテナンスに苦労されていたそうです。そういった理由から「門扉」については、どんな仕様にするのかなど設計の最初の段階から話が出ており、検討を重ねた結果、堅牢性に優れていること、シンプルな意匠で使い勝手がいいといったことからヒガノさんの製品を採用しました。
浅井 正憲様:実は、私どもは長きにわたってさまざまな案件でヒガノ様の製品を採用させていただいています。機能的にも意匠的にも魅力的な製品が多く、カタログを拝見しながら「この製品、使ってみたいなぁ」なんてよく思っているんですよ。
当初は3箇所ともノンレールのボックススライド式引戸を採用する予定でしたが、幅の広い倉庫側は「より安全で倒れる心配がないレール付きにしたい」という施主のご要望がありました。ちょうどヒガノさんのカタログを手元に置いて話をしていたので、レールタイプのマルチスライド式引戸を提案したところ、トラックの出入りに必要な間口を確保でき、安定性も高いということで気に入っていただきましたね。
施主様から感想があれば教えてください。
施主様からはオフィスがとても使いやすくなり、部署間のコミュニケーションが活発になって非常に満足していると感想をいただいています。関係部署の部屋が隣り合うことでちょっとした会話も生まれるようになり、部署を越えて人の接点が生まれるようになったとお声をいただきました。またコミュニケーションスペースができたことで、例えば、いろんな部署の新入社員がなんとなく集まって昼食を取れる場所になり、こういった空間があることで「やっぱりこの会社に来てよかったな」と感じてもらっているようです。
設計者とメーカーの知見を掛け合わせ、
建築の可能性を拡げていきたい
エクステリアの重要性についてお考えをお聞かせください。
浅井 正憲様:建築物は建物だけでなく敷地や周辺の街並みを含めて成り立っていると考えており、設計する際には常に周りの環境を含めた一体感のあるデザインを心がけています。エクステリアは建物の中と外の接点であり、周辺の建物や街を歩く人々とつながる重要な要素です。エクステリアについては施主様も非常に気にされる部分ですから、どんなデザインで、どんな製品をどんな風に設置するのかとなど、外構の打ち合わせにはとても時間をかけています。
浅井 百合様:新しい建築プロジェクトは、その街にも大きなインパクトを与えます。計画が良ければ街の印象も格も上がり、街全体にプラスの影響をもたらします。そのためには建物の外観と、それをまとう「外構空間」とが調和することが不可欠で、エクステリアが果たす役割はとても大きいと考えています。例えば、今回の案件のように住宅街にオフィスを建てる場合、全く建物内の様子が見えないと周囲に冷たい印象を与えそうですし、かといって見え過ぎてしまうと内と外の両方にとって余計な緊張感につながりかねません。建物内にいる社員の皆様、地域に暮らす人々、お互いが居心地よく過ごせるように視線をコントロールする必要があり、特にデザインやレイアウトに気を遣いました。
今後、ヒガノに期待することはありますか?
浅井 正憲様:ヒガノさんには企画や設計の面でも豊富なノウハウがあるので、図面を通して技術者の方々ともっとたくさんの会話を重ねたいと思っています。新しい意匠やデザイン、製品の方向性を一緒に追求していけたら楽しいだろうなと思いますし、ヒガノさんと私たち設計者の知見を掛け合わせて、建築の可能性を拡げていきたいですね。
浅井 百合様:「門扉」にフォーカスしますと、本来の機能である空間を閉じる・境界を分ける要素は最重要ではあるのですが、もう少し柔らかく境界を区切る製品が生まれるといいですね。例えばお寺などに置く「いつでも人を受け入れています」という思想を表現できる仕切り。“区切られてはいるけれど、つながっている”という意趣が伝わるような…。ちょっと抽象的ですけれど、そんな製品が今後生まれてきたらいいな、と考えています。